こんにちは、特許事務所で勤務している機械系弁理士キックです。
これまでに350件以上の特許出願書類を作成してきました。
今回の記事は、
- 並設の意味は、どこに載っている?
- 並設の代わりの表現は?
- 並設は特許公報でどの位使われているの?
といった疑問をもつ知財関係者(特許用語に慣れていない方)に向けて、並設について解説します。
並設の意味は「2つ以上の物を並べて設けること」

並設は「特許技術用語集」に載っている
特許公報に特有の技術用語(特許用語)が多く収録されている「特許技術用語集」に、並設の意味が記載されています。
特許技術用語集によれば、並設の意味は以下のとおりです。
並設〔へいせつ〕to install ~ adjacent to, to install together 2つ以上の物を並べて設けること。
出典:特許技術用語委員会(2006年)「特許技術用語集 第3版」 日刊工業新聞社
特許技術用語集は、知財裁判で利用されている?

「並設の意味・出典は分かったけど、知財裁判で『特許技術用語集』が使われたことがあるの?」との疑問がでてくるかもしれません。
結論からいうと、特許技術用語集は知財裁判で利用されています。
以下の引用は、知財裁判の判決文における「当裁判所の判断」からです。
「当裁判所の判断」とは、原告・被告の主張ではなく、裁判所の判断が述べられている箇所です。
イ 辞書における語義
出典:東京地判平成20年12月9日 裁判所 HP 参照(平成19年(ワ)28614号)補償金等請求事件
(ア)広辞苑第4版(岩波書店,乙2)
「【縫合】①ぬいあわせること。〔省略〕」
…(中略)…
(イ)特許技術用語集第3版(日刊工業新聞社,乙3)「縫合〔ほうごう〕suture,stitching 縫い合わせること。…
このように特許技術用語集は、知財裁判において用語の解釈に利用されたことがあります。
でも、「並設」は広辞苑などには載っていない

「並設」は、特許用語を収録している特許技術用語集には載っていますが、広辞苑などの以下の辞典には掲載されていません。
よって、「並設」は特許用語の可能性が高いといえるでしょう。
- 広辞苑 第7版(2018年)
- 大辞林 第4版(2019年)
- デジタル大辞泉(2022年2月時点)
- 精選版 日本国語大辞典(2006年)
- JIS工業用語大辞典 第5版(2001年)
- マグローヒル科学技術用語大辞典 改訂第3版(2000年)
- 学術用語集 機械工学編(増訂版)(1985年)
広辞苑などの国語辞典、JIS用語辞典、マグロ-ヒル大辞典
広辞苑などの上記1~4の国語辞典、上記5のJIS工業用語大辞典、上記6のマグロ-ヒル科学技術用語大辞典は、知財裁判において、用語の解釈に利用されている代表的なものです。
そのため、これらに「並設」が掲載されているか否かを確認しました。
学術用語集
「並設」が学術用語集に掲載されているか確認した理由は、特許法施行規則に「技術用語は学術用語を用いる」と定められているからです(特施規24条様式29備考7、同24条の4様式29の2備考8)。
学術用語集には、数学編や物理学編など数多くありますが、特許用語は機械系の特許公報で使用されることが多いので、機械工学編を参照しました。
並設の代わりの表現

「並設」は特許用語の可能性が高いので、別の表現を考えてみましょう。
特許技術用語集によれば、並設の意味は「2つ以上の物を並べて設けること」です。
そこで、まずは「並べる」の意味を大辞林で確認してみます。
【並べる】①二つ以上のものを線状に置く。列を作るように置く。また、多くのものをきちんと配列する。②二つのものを隣り合わせて置く。
出典:大辞林 第4版(2019年)三省堂
「並べる」の意味から、並設の代わりとして使えそうな「配列」「隣り合わせる」が見つかりました。
念のため「配列」「隣り合う」の意味を確認しておきましょう。
【配列】 順序をきめてならべること。
【隣り合う】 互いに隣となる。互いに接する。となりあわせる。
出典:大辞林 第4版(2019年)三省堂
上記の意味からすると「配列」「隣り合う」は、並設の代わりの表現となりそうですね。
次に、「並べる」の類語「連ねる」、「配列」の類語「並列」「整列」、および「隣り合う」の類語「隣接」のそれぞれの意味を確認してみましょう。
【連ねる】 一列に並ぶようにする。
【並列】 並べつらねること。
【整列】 順序正しく並ぶこと。
【隣接】 となり合わせになっていること。
出典:大辞林 第4版(2019年)三省堂
「連ねる」「並列」「整列」「隣接」も、並設の代わりの表現となりそうですね。
ところで、特許技術用語集には、並設の英訳も記載されています。
並設の英訳は [to install ~ adjacent to, to install together] です。
このうち、[to install together] の和訳としては「併設」が考えられます。
「併設」の意味は、大辞林に以下のように記載されています。
【併設】 いくつかのものをいっしょに設置すること。
出典:大辞林 第4版(2019年)三省堂
そうすると、[to install together] の和訳は「併設」であるといえそうです。
したがって、並設の意味・英訳から出発して、抽出された「並設」の代わりの表現は、以下のとおりです。
- 並べる
- 連ねる
- 隣り合わせる
- 配列
- 並列
- 整列
- 隣接
- 併設
特許・実用新案公報における並設の出現数

並設の平均出現数は、約6,900件/年(2012年~2021年)
特許用語である「並設」が、特許・実用新案公報にどの位記載されているか調べてみました。
年 | 並設が出現する公報数 |
2012 | 6,731 |
2013 | 7,086 |
2014 | 7,026 |
2015 | 6,681 |
2016 | 6,700 |
2017 | 6,821 |
2018 | 6,783 |
2019 | 7,249 |
2020 | 6,454 |
2021 | 7,016 |
2012年~2021年の10年間における並設の出現数は6,454件~7,249件/年です。
また、並設の平均出現数は約6,900件/年です(2012年~2021年)。
調査データの出所
「並設が出現する公報数」は、CyberPatentDesk(サイバーパテント社の特許情報サービス)を用いて検索した結果です。
本文全文(特許請求の範囲/実用新案登録請求の範囲、明細書、要約書)に1回でも「並設」が出現する公報を抽出しました。
「公報発行数」は、特許庁ウェブサイト(過去の公報発行表)に基づいています。
調査対象の公報
調査対象の公報は、2012年~2021年に発行された公報のうち、次の3つです。
- 公開特許公報
- 公表特許公報
- 登録実用新案公報
登録公報、再公表特許は、調査対象の公報に含めていません。
調査対象に登録公報を含めていない理由
調査対象に登録公報を含めてしまうと、同一の出願について、公開・公表公報+登録公報と二重にカウントすることになり、出現数の調査にあたって好ましくないと考えたからです。
なお、公開・公表の前に登録公報が発行された出願については、後に公開公報・公表公報が発行されますので、取りこぼすことはありません。
調査対象に再公表特許を含めていない理由
再公表特許は、2022年1月から廃止されました。
このため、2021年までのデータと、2022年以降のデータとを比較することを考慮し、調査対象から再公表特許をはずしました。
まとめ
今回は、「並設」について解説しました。ポイントは、以下のとおりです。
- 並設の意味は「2つ以上の物を並べて設けること」(特許技術用語集)
- 並設の代わりの表現は、
- 並べる
- 連ねる
- 隣り合わせる
- 配列
- 並列
- 整列
- 隣接
- 併設
- 特許・実用新案公報における並設の平均出現数は、約6900件/年(2012年~2021年)

参考資料
特許技術用語集 第3版(2006年)
広辞苑 第7版(2018年)
大辞林 第4版(2019年)
JIS工業用語大辞典 第5版(2001年)
マグローヒル科学技術用語大辞典 改訂第3版(2000年)

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