こんにちは、特許事務所で勤務している機械系弁理士キックです。
これまでに350件以上の特許出願書類を作成してきました。
今回の記事は、
- 嵌着は特許用語?
- 嵌着が特許用語だと思われている理由は?
- 嵌着は特許公報でどの位使われているの?
といった疑問をもつ若手知財関係者(特許用語に慣れていない方)に向けて、嵌着について解説します。
「嵌着」は、特許用語ではない

嵌着は「JIS工業用語大辞典」に載っている
「嵌着」は、特許公報に特有の技術用語(いわゆる特許用語)だと思っていませんか?
でも、嵌着の意味は、JIS工業用語大辞典に以下のように記載されています。
【嵌着】 1.薬きょうに雷管を装着すること.2.電気雷管の電極に電橋を結合すること.電橋付けと同義語である.(=bridge welding)
出典:JIS工業用語大辞典 第5版(2001年)日本規格協会
特許用語とは、辞典に記載されていない用語であって、特許公報に特有の技術用語といわれています。
ですが、JIS工業用語大辞典には、火薬関係で用いられる用語として「嵌着」が記載されています。
したがって、「嵌着」は、JIS工業用語大辞典に掲載されているため、特許用語ではないといえるでしょう。
嵌着は「特許技術用語集」にも載っている
JIS工業用語大辞典に記載されている意味とは異なりますが、特許用語が多く収録されている「特許技術用語集」にも、嵌着の意味が記載されています。
特許技術用語集によれば、嵌着の意味は以下のとおりです。
嵌着〔かんちゃく〕to fit into be attached, to attach 嵌めて部材を取り付けること。
出典:特許技術用語委員会(2006年)「特許技術用語集 第3版」
知財裁判において認定された嵌着の意味は?

上記の特許技術用語集は、知財裁判において「嵌着」の意味の解釈に利用されたことがあります。
以下の引用は、知財裁判の判決文における「当裁判所の判断」に相当する箇所からです。
「当裁判所の判断」とは、原告・被告の主張ではなく、裁判所の判断が述べられている箇所です。
第四 当裁判所の判断
出典:大阪地判平成12年 2月22日 裁判所 HP 参照(平成10年(ワ)12235号)特許権侵害行為差止請求事件
一 争点1(イ号各物件は、本件発明の構成要件を充足するか。)について
1 相違点①について
(一) 本件発明では軸に取付台部分を嵌着している(構成要件A)のに対し、イ号切断刃では軸と取付台を一体形成している(構成a)点で相違していること(相違点①)は、当事者間に争いがない。…(略)…。本件明細書の特許請求の範囲には、発明における軸と取付台部分との関係について、「シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し、この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し、」と記載されており、本件発明において、切断刃(取付台部分と刃先部分とで分割形成されている。)の取付台部分は、軸に「嵌着」されることをその構成としていることは明らかである。そして、「嵌着」とは、「嵌めて部材を取り付けること」を意味する技術用語であり(「特許技術用語集」日刊工業新聞社〔乙10〕)、その限りにおいて一義的に内容が確定できるものである。したがって、本件発明においては、軸と取付台部分は、それぞれ別部材であることが想定されていることも明らかである。そしてまた、本件公報の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を通覧しても、「嵌着」を通常の意味と異なる用語として用いたことを窺わせる記載は見出せない。
このように、「嵌着」は、特許技術用語集に記載されている意味を有する用語として、知財裁判において認定されました。
嵌めて部材を取り付けること
嵌着が特許用語だと思われている理由

「嵌着」は広辞苑などには載っていない
「嵌着」は、JIS工業用語大辞典および特許技術用語集には載っていますが、広辞苑などの以下の辞典には掲載されていません。
このようなことから、「嵌着」が特許用語だと考えられているのでしょう。
- 広辞苑 第7版(2018年)
- 大辞林 第4版(2019年)
- デジタル大辞泉(2022年2月時点)
- 精選版 日本国語大辞典(2006年)
- マグローヒル科学技術用語大辞典 改訂第3版(2000年)
- 学術用語集 機械工学編(増訂版)(1985年)
広辞苑などの上記1~4の国語辞典、上記5のマグロ-ヒル科学技術用語大辞典は、知財裁判において、用語の解釈に利用されている代表的なものです。
また、「嵌着」が学術用語集に掲載されているか確認した理由は、特許法施行規則に「技術用語は学術用語を用いる」と定められているからです(特施規24条様式29備考7、同24条の4様式29の2備考8)。
学術用語集には、数学編や物理学編など数多くありますが、特許用語は機械系の特許公報で使用されることが多いので、機械工学編を参照しました。
特許・実用新案公報における嵌着の出現数

嵌着の平均出現数は、約1,800件/年(2012年~2021年)
「嵌着」が特許・実用新案公報にどの位記載されているか調べてみました。
年 | 嵌着が出現する公報数 |
2012 | 2,630 |
2013 | 2,316 |
2014 | 2,201 |
2015 | 1,949 |
2016 | 1,916 |
2017 | 1,737 |
2018 | 1,449 |
2019 | 1,314 |
2020 | 1,191 |
2021 | 1,007 |
2012年~2021年の10年間における嵌着の出現数は1,007件~2,630件です。
また、嵌着の平均出現数は約1,800件です(2012年~2021年)。
調査データの出所
「嵌着が出現する公報数」は、CyberPatentDesk(サイバーパテント社の特許情報サービス)を用いて検索した結果です。
本文全文(特許請求の範囲/実用新案登録請求の範囲、明細書、要約書)に1回でも「嵌着」が出現する公報を抽出しました。
調査対象の公報
調査対象の公報は、2012年~2021年に発行された公報のうち、次の3つです。
- 公開特許公報
- 公表特許公報
- 登録実用新案公報
登録公報、再公表特許は、調査対象の公報に含めていません。
調査対象に登録公報を含めていない理由
調査対象に登録公報を含めてしまうと、同一の出願について、公開・公表公報+登録公報と二重にカウントすることになり、出現数の調査にあたって好ましくないと考えたからです。
なお、公開・公表の前に登録公報が発行された出願については、後に公開公報・公表公報が発行されますので、取りこぼすことはありません。
調査対象に再公表特許を含めていない理由
再公表特許は、2022年1月から廃止されました。
このため、2021年までのデータと、2022年以降のデータとを比較することを考慮し、調査対象から再公表特許をはずしました。
まとめ
今回は、「嵌着」について解説しました。ポイントは、以下のとおりです。
- 嵌着は、広辞苑などには掲載されていないが、JIS工業用語大辞典に記載されているため、特許用語ではない
- JIS工業用語大辞典に記載されている嵌着の意味は、
- a) 銃用雷管の製造において,雷管に発火金を装着すること。
- b) 薬きょう(莢)に雷管を装着すること。
- 知財裁判において認定された嵌着の意味は、特許技術用語集に記載されている「嵌めて部材を取り付けること」(平成10年(ワ)12235号)
- 特許・実用新案公報における嵌着の平均出現数は、約1,800件(2012年~2021年)

参考資料
JIS工業用語大辞典 第5版(2001年)
特許技術用語集 第3版(2006年)
広辞苑 第7版(2018年)
大辞林 第4版(2019年)
マグローヒル科学技術用語大辞典 改訂第3版(2000年)

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