こんにちは、特許事務所で勤務している機械系弁理士キックです。
これまでに400件以上の特許出願書類を作成してきました。
今回の記事は、
- 螺入の意味は、どこに載っている?
- 螺入の代わりの表現は?
- 螺入は特許公報でどの位使われているの?
といった疑問をもつ知財関係者(特許用語に慣れていない方)に向けて、螺入について解説します。
螺入の意味は「ねじ込むこと」

螺入は「特許技術用語集」に載っている
特許公報に特有の技術用語(特許用語)が多く収録されている「特許技術用語集」に、螺入の意味が記載されています。
特許技術用語集によれば、螺入の意味は以下のとおりです。
螺入〔らにゅう〕 to screw into ねじ込むこと。
出典:特許技術用語委員会(2006年)「特許技術用語集 第3版」 日刊工業新聞社
特許技術用語集は、知財裁判で利用されている?

「螺入の意味・出典は分かったけど、知財裁判で『特許技術用語集』が使われたことがあるの?」との疑問がでてくるかもしれません。
結論からいうと、特許技術用語集は知財裁判で利用されています。
以下の引用は、知財裁判の判決文における「当裁判所の判断」からです。
「争点に対する判断」とは、原告・被告の主張ではなく、裁判所の判断が述べられている箇所です。
第3 争点に対する判断
出典:東京地判平成23年 2月24日(平20年(ワ)2944号)損害賠償請求事件
1 争点1-1(被告製品は,構成要件D,Fの「貫通穴空間」を有しているか)について
(1) 被告は,被告製品が構成要件D,Fの「貫通穴空間」を有しない,と主張する。…(略)…。また,「貫通穴」(貫通孔)とは,「貫き通った孔。連通孔」を(特許技術用語集第3版・30頁),「空間」とは,「物体が存在しない,相当に広がりのある部分。あいている所。」を,それぞれ意味する語である(広辞苑第6版・781頁)。
このように特許技術用語集は、知財裁判において用語の解釈に利用されたことがあります。
でも、「螺入」は広辞苑などには載っていない

「螺入」は、特許用語を収録している特許技術用語集には載っていますが、広辞苑などの以下の辞典には掲載されていません。
よって、「螺入」は特許用語の可能性が高いといえるでしょう。
- 広辞苑 第7版(2018年)
- 大辞林 第4版(2019年)
- デジタル大辞泉(2023年3月時点)
- 精選版 日本国語大辞典(2006年)
- JIS工業用語大辞典 第5版(2001年)
- マグローヒル科学技術用語大辞典 改訂第3版(2000年)
- 学術用語集 機械工学編(増訂版)(1985年)
広辞苑などの国語辞典、JIS用語辞典、マグロ-ヒル大辞典
広辞苑などの上記1~4の国語辞典、上記5のJIS工業用語大辞典、上記6のマグロ-ヒル科学技術用語大辞典は、知財裁判において、用語の解釈に利用されている代表的なものです。
そのため、これらに「螺入」が掲載されているか否かを確認しました。
学術用語集
「螺入」が学術用語集に掲載されているか確認した理由は、特許法施行規則に「技術用語は学術用語を用いる」と定められているからです(特施規24条様式29備考7、同24条の4様式29の2備考8)。
学術用語集には、数学編や物理学編など数多くありますが、特許用語は機械系の特許公報で使用されることが多いので、機械工学編を参照しました。
螺入の代わりの表現

螺入の意味を使って表現する
特許技術用語集によれば、螺入の意味は「ねじ込むこと」です。
そこで、「螺入」を使う場面では、「ねじ込む」と表現してみましょう。
ところで、特許技術用語集には、螺入の用例として下記のものが掲載されています。
(例)ねじ棒が取付穴に螺入される。
出典:特許技術用語委員会(2006年)「特許技術用語集 第3版」 日刊工業新聞社
外筒の雌ねじ部に内筒の雄ねじ部を螺入する。
上記の用例中の「螺入」を「ねじ込む」に置き換える、以下のようになります。
- ねじ棒が取付穴にねじ込まれる。
- 外筒の雌ねじ部に内筒の雄ねじ部をねじ込む。
このように、「螺入」と表現せずに、「ねじ込む」を使った方が読み手にとっては分かりやすいですよね。
したがって、「螺入」の代わりの表現は、以下のとおりです。
- ねじ込む
螺入の類語は特許用語
螺入の類語としては、下記のものが挙げられます。
螺合〔らごう〕 ねじを嵌め合わせること。
螺嵌〔らかん〕 ねじ嵌めすること。
螺設〔らせつ〕 ねじ固定で設けること。
螺着〔らちゃく〕 ねじ込んで取り付けること。
螺挿〔らそう〕 ねじ込んで入れること。
出典:特許技術用語委員会(2006年)「特許技術用語集 第3版」 日刊工業新聞社
ですが、螺合などの上記熟語は、特許用語を収録している特許技術用語集には載っていますが、広辞苑などの上記1~7の辞典には掲載されていません。
したがって、これらも特許用語の可能性が高いといえるでしょう。
読み手にとっては特許用語でない方がいい
特許用語が使われている理由は、一般に以下のとおりと考えられています。
- 特許用語を用いると表現が短くなる
- 技術的な説明が簡便にできる
このように特許用語は、書き手の利便性のために使われています。
でも、特許用語に慣れていない読み手にとっては、多少文章が長くなったとしても、すぐに意味のわかる言葉で表現されている方が分かりやすく、読みやすいですよね。
この点は、特許法概説(吉藤)でも述べられています。
明細書には従来慣習的に使用されるいわゆる特許慣用語がある(例 枢着)。明細書作成専門家にとっては,簡単で便利なため慣用されているが、一般に使用されていないものであるため,明細書は難解であるとされる理由の1つになっており,また,その意味について誤解を招くことも少なくない。これらは,できるだけ平易な用語―このため長くなるが―に代えることによって明細書の平易化(明細書の一般文献化)を図るとともに,用語上無用の誤解を招かないようにすべきであろう。
出典:吉藤幸朔(1997年)「特許法概説 第12版」有斐閣 p.270
読み手の分かりやすさを考慮すると、特許用語を使うのは控えたほうがよいでしょう。
したがって、螺入の代わりの表現として「ねじ込む」をおすすめします。
特許・実用新案公報における螺入の出現数

螺入の平均出現数は、約1,100件/年(2012年~2021年)
「螺入」が特許・実用新案公報にどの位記載されているか調べてみました。
年 | 螺入が出現する公報数 |
2012 | 1,142 |
2013 | 1,151 |
2014 | 1,183 |
2015 | 1,128 |
2016 | 1,074 |
2017 | 1,004 |
2018 | 988 |
2019 | 1,246 |
2020 | 939 |
2021 | 1,155 |
2012年~2021年の10年間における螺入の出現数は939件~12466件です。
また、螺入の平均出現数は約1,100件です(2012年~2021年)。
調査データの出所
「螺入が出現する公報数」は、CyberPatentDesk(サイバーパテント社の特許情報サービス)を用いて検索した結果です。
本文全文(特許請求の範囲/実用新案登録請求の範囲、明細書、要約書)に1回でも「螺入」が出現する公報を抽出しました。
調査対象の公報
調査対象の公報は、2012年~2021年に発行された公報のうち、次の3つです。
- 公開特許公報
- 公表特許公報
- 登録実用新案公報
登録公報、再公表特許は、調査対象の公報に含めていません。
調査対象に登録公報を含めていない理由
調査対象に登録公報を含めてしまうと、同一の出願について、公開・公表公報+登録公報と二重にカウントすることになり、出現数の調査にあたって好ましくないと考えたからです。
なお、公開・公表の前に登録公報が発行された出願については、後に公開公報・公表公報が発行されますので、取りこぼすことはありません。
調査対象に再公表特許を含めていない理由
再公表特許は、2022年1月から廃止されました。
このため、2021年までの出現数と、2022年以降の出現数とを比較することを考慮し、調査対象から再公表特許をはずしました。
まとめ
今回は、「螺入」について解説しました。ポイントは、以下のとおりです。
- 螺入の意味は「ねじ込むこと」(特許技術用語集)
- 螺入の代わりの表現は「ねじ込む」
- 特許・実用新案公報における螺入の平均出現数は、約1,100件(2012年~2021年)
参考資料
特許技術用語集 第3版(2006年)
広辞苑 第7版(2018年)
大辞林 第4版(2019年)
JIS工業用語大辞典 第5版(2001年)
マグローヒル科学技術用語大辞典 改訂第3版(2000年)

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