【止着 しちゃく】特許公報で見かける止着について解説!

こんにちは、特許事務所で勤務している機械系弁理士キックです。

これまでに400件以上の特許出願書類を作成してきました。

今回の記事は、

  • 止着の意味は、どこに載っている?
  • 止着の代わりの表現は?
  • 止着は特許公報でどの位使われているの?

といった疑問をもつ知財関係者(特許用語に慣れていない方)に向けて、止着について解説します。

止着の意味は「動かないように着けること」

止着は「特許技術用語集」に載っている

特許公報に特有の技術用語(特許用語)が多く収録されている「特許技術用語集」に、止着の意味が記載されています。

特許技術用語集によれば、止着の意味は以下のとおりです。

止着〔しちゃく〕 to tie up, to pin up 動かないように着けること。

出典:特許技術用語委員会(2006年)「特許技術用語集 第3版」 日刊工業新聞社

特許技術用語集は、知財裁判で利用されている?

「止着の意味・出典は分かったけど、知財裁判で『特許技術用語集』が使われたことがあるの?」との疑問がでてくるかもしれません。

結論からいうと、特許技術用語集は知財裁判で利用されています。

以下の引用は、知財裁判の判決文における「当裁判所の判断」からです。

「当裁判所の判断」とは、原告・被告の主張ではなく、裁判所の判断が述べられている箇所です。

イ 原告が主張する副引用例及び周知技術について
 (ア) 甲2発明について
  a 甲2の記載事項(前記3(1))からすると,…
  b 甲2発明において,…(略)…,型枠に中間巾止め金具10を係止するため,すなわち,「係わり合って止まる」(特許技術用語委員会編「特許技術用語集-第3版-」47頁,日刊工業新聞社,平成18年8月31日発行)ために設けられているものとは認められない。

出典:知財高判令和3年7月29日 裁判所 HP 参照(令和2年(行ケ)10142号)審決取消請求事件

このように特許技術用語集は、知財裁判において、用語の解釈に利用されたことがあります。

でも、「止着」は広辞苑などには載っていない

「止着」は、特許用語を収録している特許技術用語集には載っていますが、広辞苑などの以下の辞典には掲載されていません。

よって、「止着」は特許用語の可能性が高いといえるでしょう。

「止着」が載っていない辞典
  1. 広辞苑 第7版(2018年)
  2. 大辞林 第4版(2019年)
  3. デジタル大辞泉(2023年3月時点)
  4. 精選版 日本国語大辞典(2006年)
  5. JIS工業用語大辞典 第5版(2001年)
  6. マグローヒル科学技術用語大辞典 改訂第3版(2000年)
  7. 学術用語集 機械工学編(増訂版)(1985年)

広辞苑などの国語辞典、JIS用語辞典、マグロ-ヒル大辞典

広辞苑などの上記1~4の国語辞典、上記5のJIS工業用語大辞典、上記6のマグロ-ヒル科学技術用語大辞典は、知財裁判において、用語の解釈に利用されている代表的なものです。

そのため、これらに「止着」が掲載されているか否かを確認しました。

学術用語集

「止着」が学術用語集に掲載されているか確認した理由は、特許法施行規則に「技術用語は学術用語を用いる」と定められているからです(特施規24条様式29備考7、同24条の4様式29の2備考8)。

学術用語集には、数学編や物理学編など数多くありますが、特許用語は機械系の特許公報で使用されることが多いので、機械工学編を参照しました。

止着の代わりの表現

「止着」は特許用語の可能性が高いので、別の表現を考えてみましょう。

特許技術用語集によれば、止着の意味は「動かないように着けること」です。

このような意味からすると、「固着」「固定」などの以下の表現が「止着」の別の表現として使えそうですね。

【固着】 かたくしっかりとつくこと。一定の場所に留まって移らないこと。

【固定】 一定の位置・状態にあって動かないこと。また、 動かないようにすること。

【留める】 動かないように固定する。

【押さえる】 動いたり出たりしないようにおしとどめる。

【押さえ込む】 押さえて動けないようにする。

【押さえつける】 しっかりとおさえて動けないようにする。

出典:広辞苑 第7版(2018年)岩波書店

したがって、「止着」の代わりの表現は、以下のとおりです。

止着の代わりの表現
  • 固定
  • 固着
  • 留める
  • 押さえる
  • 押さえ込む
  • 押さえつける

特許・実用新案公報における止着の出現数

止着の平均出現数は、約1,200件/年(2012年~2021年)

「止着」が特許・実用新案公報にどの位記載されているか調べてみました。

止着が出現する公報数
20121,510
20131,386
20141,455
20151,452
20161,820
20171,127
2018911
2019930
2020788
2021605
特許・実用新案公報における止着の出現数(2012年-2021年)

2012年~2021年の10年間における止着の出現数は605件~1,820件です。

また、止着の平均出現数は約1,200件です(2012年~2021年)。

調査データの出所

「止着が出現する公報数」は、CyberPatentDeskサイバーパテント社の特許情報サービス)を用いて検索した結果です。

本文全文(特許請求の範囲/実用新案登録請求の範囲、明細書、要約書)に1回でも「止着」が出現する公報を抽出しました。

調査対象の公報

調査対象の公報は、2012年~2021年に発行された公報のうち、次の3つです。

  • 公開特許公報
  • 公表特許公報
  • 登録実用新案公報

登録公報、再公表特許は、調査対象の公報に含めていません。

調査対象に登録公報を含めていない理由

調査対象に登録公報を含めてしまうと、同一の出願について、公開・公表公報+登録公報と二重にカウントすることになり、出現数の調査にあたって好ましくないと考えたからです。

なお、公開・公表の前に登録公報が発行された出願については、後に公開公報・公表公報が発行されますので、取りこぼすことはありません。

調査対象に再公表特許を含めていない理由

再公表特許は、2022年1月から廃止されました。

このため、2021年までの出現数と、2022年以降の出現数とを比較することを考慮し、調査対象から再公表特許をはずしました。

まとめ

今回は、「止着」について解説しました。ポイントは、以下のとおりです。

ポイント
  • 止着の意味は「動かないように着けること」(特許技術用語集)
  • 止着の代わりの表現は、
    • 固定
    • 固着
    • 留める
    • 押さえる
    • 押さえ込む
    • 押さえつける
  • 特許・実用新案公報における止着の平均出現数は、約1,200件(2012年~2021年)

参考資料

特許技術用語集 第3版(2006年)
広辞苑 第7版(2018年)
大辞林 第4版(2019年)
JIS工業用語大辞典 第5版(2001年)
マグローヒル科学技術用語大辞典 改訂第3版(2000年)
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